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建築費用の適正価格と価格交渉について




私達は買い物をする際に、その価格が妥当かどうかを判断しながら購入しています。
日常品の購入にあっては、数店舗を巡っていれば自ずと相場が分かるようになりますし、
現代ではインターネットにより市場をリサーチすることも一般的になっているようです。

日常生活をとりまく商品の大半は大量生産による規格品であり、製品のクオリティが一定
であることや、メーカーの保証が確立されているために、代理店の販売価格の単純な比較
によって購入先を選んでも概ね安心できることと思います。

近年これらの消費者意識をそのままの感覚で注文住宅にもち込まれるケースが増え、
施工会社に対して闇雲に見積書の単価をネゴする光景を目にする機会が増えたように思います。
また諸経費や労務費などのように実際に目視できない項目については詳細な説明を求められる
事が確実に増えているように感じます。

しかし細かい単価のネゴをおこなうことは、一見得するように写るかも知れませんが、
この業界では必ずしも建て主に良い結果をもたらすとは限りません。
注文住宅の場合は例えハウスメーカーであっても成果物が全く無い状況下で、
見込み物の完成を思い描いて契約(購入)するかどうかの判断を要求されます。

我々は施工会社に対して2週間程度の限られた期間で見積を提出するように要求しますが、
たった一軒の住宅であっても、それが成り立つために必要な要素は、なんと宇宙にまで飛行
可能な宇宙船ができてしまうほどの項目を有するそうです。

このような期間で、仕事になるかどうか未確定でもある一品ものの注文住宅の設計意図を
設計図書によって細部にまでわたって完全に把握することは極めて難しい作業です。
また、元請けの施工会社は実際に作業をおこなう協力業者(旧:下請け業者)からの見積が期限
までに間に合わない場合や経費のかけられない無料での見積作業手間を省く理由等で、
元請けが経験値によって取り急ぎ費用を提出しなければならないことも日常のことです。

このように工事価格の精度を上げることは困難を極めるものであり、施工会社自身も
工事費用のNET価格は経験値に頼って概ね把握しているというのが現実です。
結局は竣工後でないと正確な金額は分からないというのが本音なのです。

一般に項目が増えれば増えるほど見積は上昇する傾向にありますが、あまりにも細かい
単価次元での価格交渉を要求することは、請け負う側に不安を募らせる結果となり、
ついでにやっても良いと考えていた項目までをも見積計上せざるを得なくなる場合があります。
結果としてかえって高い見積になってしまった場合や、工事中の作業を何らかのカタチで切り詰めないと
ならないような強迫観念に囚われ、工事中にそれらのマイナス要因が出てしまう場合もあるでしょう。

厳しい時代です。なかには仕事を受けたいがために明確な根拠を示せないままに他社の見積より
も下げて請けることを提示する施工会社もありますが、その金額がダンピングになっていないかを
きちんと見極めねばなりません。無理な請負は必ず何らかのしわ寄せとなって現れます。

一例を挙げますが仮設工事は最終的な完成建物に残りません。故に軽視されてしまいがちですが、
工事を安全かつスムースに行うためにとても大切な工事項目です。ここに必要充分な費用を保
てるかどうかは、仕上がり具合や工期に多大な影響を及ぼすということが想像できるでしょうか。

足場の期間を削るために無理な工程で仕上げ工事を段取りせざるを得ないとか、施工図面の経費を削り
大工さん任せで中途半端な納まりで仕上げてしまったとか、現場監督や近隣対策のためのガードマンが
現場に滞在する期間を削ったために近隣トラブルが増えてしまう等々…

このように着工前には明確に想像できない工事項目や諸経費が削られてしまう可能性や、実際に作業をして
いただく方々の士気にまで影響する場合もあるのです。そして最終的に被害を被るのは建築主であることには
違いありません。適正価格とは、実際に作業する方々が安全に気持ちよく良い仕事を行えるための最低限の
費用とも言い換えられると思います。

均一で精度の良い工業製品に囲まれてきた次世代の傾向なのかも知れませんが、
「イメージどおりのクオリティがどの工務店やハウスメーカーで造っても当然得られる」
との工業製品的な考えを普通にもっていると思います。日経等の専門誌によると現実には一品物を手作業で
未だに現場で造っているこの業界の感覚との温度差から生じるトラブルが絶えないようです。
単に「他社より安い」という理由での選択はリスキーであることを知らねばなりません。

適正価格とは規格品でさえも既述のとおり相対的判断により感覚的に捉えているにすぎません。
例えば自動車の燃料を給油するスタンドを普段から決めている方は、周囲に同額や多少安い
給油所があったとしても余程の価格差がない限りは、気持ちの良い人間関係のもてる環境や、
サービスの良い(合う)ところに価値を感じ、独自に適正価格を判断していることと思います。

工事費用の過半は労務費(人件費)によって算出されるものです。それらにはサービスだけでなく
厚意という精神的な要素も加わります。果たして人件費に対する適正価格などは存在しえるでしょうか?

工事費用の比較は茶番劇のように思えてきますが、そのようななかで一生の建物を造るところを比較して
決めなければならないことも事実です。
当事務所ではクライアントに適正価格をつかんでいただくために、この業界の特性と経験値を基にアドバイスを
随時おこなっております。価格の交渉についても三者が気持ちよく納得できるかたちでおこなっております。

不透明な業界ですがクライアントの不安を少しでも払拭し、安心した建物づくりを楽しめるように、
クライアントの代理人として、第三者の立場でのコンサルティングを行うことは設計事務所の存在意義の
一つであります。

世間の非常識がこの業界では当たり前だったりするために、多くの余計な心配を抱えてしてしまいがちですが、
そんな不安も解消できる、何でも気軽に相談できる存在であることを理解していただけたら幸いです。