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一体誰が建ててるの? (建て主と施工者の温度差)





上棟後の建築現場には「○○工務店」とか「△□建設」などと書かれた垂れ幕を掲げることがありますが、
作業を行う大工さんが異なる会社名の車やヘルメットを使用していることに違和感を憶えることがあります。

大工さんが最も家づくりの主役に写るため、工事契約を済ました元請け施工会社に対し、
『果たして本工事にどれだけ携わっているのだろうか?』
とか、
『実は工事が丸投げされているのではないか?』
などの疑問を抱くお施主様もいらっしゃるようです。

建物は多くの工種(手)の集合によって一つの建造物として現れます。
言い換えれば、各工種を協力業者(旧呼:下請け)に請けていただくことによって建物は完成し、
その成果物が元請けの施工と称してお施主様に引き渡される訳です。
それでは元請けの仕事は斡旋ではないかと思われる方もいらしゃることでしょう。

大工さんはあくまでも工事項目の『木工事』にあたる部分を元請けより請け負っています。
(※自社専属の大工(社員)として雇う純工務店系の施工会社もありますがここでは略します)

それでは、それぞれの工手の都合で作業を進めていくことは可能でしょうか?
これでは工期の約束はできないばかりか、各工事間のとりあい部分の整合や、
施工済み部分の竣工までの管理等、目に映りにくいグレーゾーンの責任の所在が不透明であり、
これでは綺麗な成果物としてクライアントに引き渡すことができるのかが疑問です。

ここで、元請けの主な仕事をまとめます。

・『資材管理』大工さん等が扱う材料の調達、搬入経路や時間の調整、搬入、そして管理する。
・『工程管理』現場がスムースに運ぶように各業者間の工程を調整する、工程表の作成。
・『人の管理』各協力業者の手配、そして管理を行う。
・『金銭管理』工事費用の増減や各協力業者との請負に関する事務作業を行う。
・『品質管理』搬入材料の確認とチェック。施工後の養生など、品質を保つ。
・『安全管理』事故防止のためのガードマン配置等の近隣への処遇や、現場内の作業が安全に行えるように、
         仮設計画に基づき仮設材や標識を手配したりと、周囲を含む現場環境を整える。

これらの「6大管理業務」を主におこなう総合管理業であり、
想像以上の手間と時間のかかる業務をおこなっているのです。

現場にはどの職手の範疇かが曖昧なグレーゾーンにあたる雑務が必ず生じます。
これらの解決や清掃衛生管理も行い、広い視野で全体をとりしきるスーパー何でも屋さんです。
夕方に現場を閉めて会社に戻ってからも、施工図の作成や次の日の段取りにはじまり、
工程表や見積書の作成や協力会社への請け書や請求書の作成など、なかなか帰路に就けません…
大工さんが一日に決められた時間内で木工事に徹することができるのは元請けのお陰様なのです。

過去に台風の影響で工事用の養生シートがバタバタする音が気になって眠れなかったという
近隣からクレームをいただいた際に、速やかに元請けの現場監督がお詫びに伺い、
対策方法を丁寧に説明したところ、思いもよらない早い対応をいただけたということで逆に感謝され、
良好な近隣関係のなかで新生活を開始できたという例があります。
元請けの対応の差は、思いもよらずこれから永く住む建て主に影響を与えてしまう要素となります。

このように、大工さんだけでも設備屋さんだけでも、更には近隣の方々の協力なしには建築を
スムースに進めていくことはできません。実際の作業としては目に映りにくい元請けの営みは、
目に見える「釘を打つ」行為に等しい大切な役割を担っています。

昔は一棟を棟梁の裁量により時間をかけて造ることができました。建築は良くも悪くも経済行為です。
益々の情報化の進行に伴い、価格競争が激化した市場主義の現在社会では建築分野も多分に漏れず、
効率化を計るための分業化が進みました。「棟梁」自体が死語となりつつある現実を感じますが、
現在では元請けの現場監督が棟梁にあたる役割を担っていると言えます。

大工さん自体が協力業者の一つとして扱われてしまう時代のなかで、クライアントの「棟梁幻想」と
現実社会とに温度差を感じながらも、上棟式という古き良き儀式は現在も少なからず行われています。
竣工後も建物が無事であるように願う神事ですが、現在は工事関係者を労い、クライアントを祝う
祝賀会の意味合いが強まりました。

蛇足ですが、バブル時代のゼネコンは下請けの孫請けの更に下請けが造っているという、
違う意味で一体誰が造っているのか分からない事態が生じ、建築費は高騰していきました。
しかし、全ての責任は『元請け』にあります。アフターケアという重要な責任も負っているのです。

工事会社によってはこれまで書き綴った類の誤解を生じないように、大工さんは社員であると便宜上うたい、
大工さんの屋号を表に出さない場合もあるようですが、大切なのは6大管理業務を遂行いただくことにあり、
元請け(を含めた総勢)によって建てているという事実は違いありません。



※設計事務所による現場監理について

設計事務所の業務である監理とは、建て主の代理人として施工者との間に入り、
設計の意図どおりに工事が進められているかの確認をし、必要に応じて是正を指示したりと、
クライアントと施工者間を専門家として橋渡しを行う役目を担います。
その他にも、施工者へ施工方法等に関する助言をおこなったり、クライアントの変更等の要求を現場に伝え、
調整をおこなったりするような「コンサルティング業務」が監理業務の範囲であり、
現場監督の「総合管理業務」とは一線を画します。